深夜の映画館で常番の老人が殺された。河上刑事は、折しも危篤状態を脱した一人息子を病院に見舞い、つきっきりで看病している妻をいたわっていたところだが、署からの急報で現場へ急行した。瀕死の老人の口から「マツウラ」の言葉を聞いた河上刑事は映写技師見習の松浦進を指名手配した。捜査が進むにつれ、松浦には林田恵美子という女がいることが判った。河上刑事はアパートに恵美子を訪ねた。彼女は語った--進さんの母は若いころ男の人に捨てられたんです。それ以来、進さんは世をひがんで生きるようになったんです--河上刑事は、その言葉に強くうたれた。数日後、恵美子のアパートに進が忍んできたが、一目逢うなり進は非常線をくぐって逃げ去った。その夜、妻子のいない家に戻ってきた河上刑事のもとへ一人の男がふみ込んできた。それは進だった。--あんたは俺の親父なんだ--蒼白になった河上刑事に、進は、明日九時二十分の新潟行列車に乗って逃げるから一緒に来いと恵美子に報せてくれと頼んだ。翌朝、上野駅に河上刑事が現れた。彼は進と恵美子が来るはずの列車に乗りこんだ。何両目かのドアをあけた河上刑事は進を見つけた。彼は懐から辞職願を取出し、進に云った。--お前は私の息子だ、私も一緒に責任をとろう--進の顔が泣き笑いのように歪んだ。次の駅で父と子は列車を降りた。