近松門左衛門の原作を基に宇野信夫が脚色した名作。昭和28年の初演以来遊女お初を演じ続けてきた藤十郎の至芸をご覧頂く。藤十郎のお初に、翫雀(現・鴈治郎)の徳兵衛、橋之助(現・芝翫)の九平次、我當の久右衛門で。 大坂平野屋の手代徳兵衛は、天満屋の遊女お初と将来を約束しあう仲。しかし徳兵衛は伯父久右衛門に返さなければならない持参金を、友人で商売仲間の油屋九平次に騙し取られてしまう。絶望した徳兵衛が天満屋に現れると、お初はこれを招き入れ縁の下へ隠す。九平次達が徳兵衛を散々にこき下ろす様子を聞き、お初は、縁の下の徳兵衛に潔白を証明するため死ぬ覚悟を問うと、死の決意を合図する徳兵衛。やがて夜が更け、白無垢に着替え覚悟をきめたお初は、徳兵衛の手を取り曽根崎の森へと向かうのだった…。
のちに作られた歌舞伎十八番の『勧進帳』とは異なり、荒唐無稽でユニークな味わいの作品。
明智光秀の謀反を題材にした『絵本太閤記』。「尼ヶ崎閑居の場」では光秀一家の悲しみと情愛をドラマティックに描いた重厚感あふれる義太夫狂言の名作で「本能寺の変」を素材にした時代物で反逆者武智(明智)光秀の家の悲劇を描く。前半、光秀の子息で討死する覚悟の十次郎を許婚の初菊、祖母の皐月、母の操は彼との別れの悲しみを堪えて初陣の戦場へ送り出す。三人の女性の悲しみと戦乱の世の無常と非情さが描き出されている。後半は反逆者光秀の登場から始まり、その家族の悲劇の結末を迎える。反逆者の古怪さが醸し出され凄味と大きさを、低い義太夫節の語りに合わせて見せる光秀の<出>が一番のみどころとなっている。